【MRAM量産装置でも№1を】

社員インタビュー Vol.2

恒川 孝二さん

 恒川氏は、入社後3年目の1998年に「斜め入射回転成膜方式のスパッタ装置」を開発(特許取得)。この斜め入射回転成膜方式のスパッタ装置のコンセプトは、現在もキヤノンアネルバの主力スパッタ装置に採用されている。
 その後、2004年に産業総合技術研究所と共同で「CoFeB/MgO/CoFeB構造のMTJ素子」の開発にたずさわり、2007年に東京工業大学の社会人博士課程で博士号(工学)を取得。2008年には、その開発功績により、産学官連携推進功労表彰の内閣総理大臣賞を受賞。
 CoFeB/MgO/CoFeB構造のMTJ素子は、現在のハードディスクドライブ(HDD)の磁気ヘッドおよびMRAMに標準的に使用されており、磁気ヘッド製造向けに開発されたC-7100は、マーケットシェア100%を達成。現在全てのHDDの磁気ヘッドは当社装置を使って製造されている。
 現在は、同社の装置事業部プロセス開発部の担当部長として、MRAMを主とした半導体デバイスおよび磁気デバイス向け装置のプロセス開発を統括し、MRAM量産装置でもトップシェアを目指している。


【入社のきっかけは?】

 東京都立大学理学部物理学科(現在の首都大学東京)卒業後、1995年4月に日電アネルバ(現在のキヤノンアネルバ)に入社しました。
 他社も受けていたのですが、大学卒業当時は就職氷河期の時代で、なかなか学部卒で技術職の採用は難しい状況でした。
 アネルバを就職希望先に入れたのは、東京都立大学の研究室に日電アネルバ(当時)の真空装置があったことがきっかけです。その真空装置を見て、こういうことをやっている会社ということを知りまして、面白そうだなと思って入社を決めました。


【入社後の業務と、「斜め入射回転成膜方式のスパッタ装置」について教えてください。】

斜め入射回転成膜方式

 入社後は、超高真空スパッタリング装置のプロセスエンジニアとして、磁気ヘッド・MRAM向けの成膜プロセス開発を担当していました。
 入社2、3年目に「斜め入射回転成膜方式のスパッタ装置」を開発して、特許も取得しました。そのコンセプトが現在の当社の主力のスパッタ装置に採用されています。
 斜め入射回転成膜方式のスパッタ装置の特徴は、成膜する基板面内において非常に均一な膜厚分布で薄膜を成膜することができることです。これにより製造装置として歩留まりの改善につながりました。
 また、この方式を使うとスパッタリングターゲットのサイズを小さくすることができるという別の利点もあり、1つの真空チャンバーに複数のターゲットを取り付けることが可能となります。
 そのおかげで、1つの真空チャンバー内で多層膜や組成を変えた合金膜を成膜することも可能となり、製造装置でありながら材料の研究開発も飛躍的に進みました。


【「斜め入射回転成膜方式のスパッタ装置」が受け入れられるまでの流れを教えてください。】

 斜め入射回転成膜方式は、今では弊社の主力のスパッタ装置に採用されていますが、開発当時は奇抜過ぎて、製造装置としてはなかなか受け入れてもらえませんでした。社内でもこれが主流の装置になるとは誰も思っていませんでした。
 しかしながら、地道にデータを積み重ね、成果を学会で発表し、お客様に対してデモンストレーションを行うことによって次第に受け入れられ、2002年頃から市場に受け入れられるようになりました。結果としてそれまでに4年かかりました。
 斜め入射回転成膜方式のスパッタ装置は、まず小型の研究開発装置に採用されまして、その後、磁気ヘッドの製造装置に使われ、MRAMなどの別のアプリケーションにどんどん展開されていくようになります。

MRAM

 しかし、スパッタ装置の生産方式として当時は前例がない方式で、奇抜な発想だったこともあって、コンセプトだけではすんなりとは受け入れてもらえませんでした。
 社内の他部署には「本当にそんなものが製品になるのか」と思われる人もいて、理解してもらうためには時間がかかりました。
 新しい方式を受け入れてもらうためには、お客様の懸念や不安をいかに取りのぞくか、ということがポイントでした。これは技術の話ですから、データで示すしかない、いろいろな観点で調べてもらって、大丈夫ですよ、問題ないですよ、と思ってもらえるようにしようと考えました。
 お客様だけでなく、学会など公の場でも発表していきました。高額な装置ですから、お客様の中には「この人(会社)を信じていいのか」と思う方もいらっしゃったと思います。それでも、技術を公の場や学会で発表してアピールすることで、「安心して大丈夫なんだ」と思ってくれると信じてやっていました。
 また、高額な商品ですから、当然お客様は製造装置を買って使い物にならないというリスクを懸念されるわけです。そのため、買う前にあれを調べてほしい、これは大丈夫か、といったお客様の不安や懸念を払拭するため、実際に装置を使ってお客様が生産される予定の磁気ヘッドやMRAMといった製品を作ってその性能を評価し、データ提出にも積極的に取り組みました。


【購入前に製造装置のデータや性能をお客様に評価してもらうには?】

 具体的には、お客様からサンプルをお預かりして、弊社の装置のデモ機を使って処理して、その上でデバイスを形成して返却する。これを作るにはどれぐらい時間がかかるなどを検証するわけです。お客様がそれを分析して性能を確認するという、それの繰り返しです。
 お客様のところへ伺って技術プレゼン・ディスカッションして、それを持ち帰って社内で実験します。そのデータを持って、お客様のところへ伺って説明するという実験と顧客訪問を繰り返す日々が続いていました。
 中には、そこまでのデータを出すことが難しい、というご要望もありましたが、その代わりにこのようなデータではどうですか、というディスカッションを繰り返して、お客様の不安を払拭していきました。
 2000年から2002年は、実験と出張を繰り返す日々が続きましたが、2002年頃には斜め入射回転成膜方式が受け入れられるようになり、最近は海外のお客様の仕事も多く、1カ月に1、2週間は海外出張しています。海外は、アメリカ、ヨーロッパ、韓国、台湾、シンガポールといわゆる半導体産業が盛んな国に出向くことが多いですね。


【国内と海外での違いや気をつけていることは何ですか?】

 海外では直接英語でご説明することが多いです。国内のお客様とは言葉も文化も当然違うのですが、海外であっても同じ技術者同士ですから、技術に対する理解は同じだと私は思っています。
 私の英語はけっして流暢ではないのですが、技術の説明で使う「技術語」は共通的に通じます。丁寧に技術のことをご説明するとお客様にも理解していただけますので、日本語であっても英語であっても丁寧に説明することに気をつけています。
 逆に言うと、海外であろうと国内であろうとお客様が求めている内容をきちんと伝えていくことが大事だと思っています。


【斜め入射回転成膜方式のスパッタ装置の強みを教えてください。】

 この斜め入射回転成膜方式のスパッタ装置が、磁気ヘッドの製造装置として実績を作ったことにより、その後、MRAMや半導体の分野にも展開されるようになりました。
 金属の薄い原子数個分単位の膜を基板の中で成膜する技術は、さまざまな分野で熱望されておりまして、まずは磁気ヘッドの装置から採用されました。その成功を受けて、他の分野にも受け入れられています。
 現在では当社の主力製品として、電子部品業界では磁気ヘッド、半導体業界ではMRAMやMetal Gate、マスク用のスパッタ装置としてマーケットシェア第1位を獲得しています。


【産業総合技術研究所と共同で開発した、「CoFeB/MgO/CoFeB構造のMTJ素子」を使った製造装置C-7100がマーケットシェア100%を達成した要因は何だと思いますか?】

 産業総合技術研究所(産総研)と共同で開発したCoFeB/MgO/CoFeB構造のMTJ素子は、現在のHDDの磁気ヘッドおよびMRAMに標準的に使われております。
 弊社の磁気ヘッド製造向けに開発されたC-7100は、マーケットシェア100%を達成しており、現在全てのHDDの磁気ヘッドは当社装置を使って製造されています。
 マーケットシェア100%を達成した要因については、私が何人かのお客様からお聞きした言葉を借りて説明したいと思います。
 なぜアネルバの装置が良かったのか、なぜアネルバを選んだのかとお客様にお聞きしますと、「アネルバのC-7100を買えば、自社のデバイス設計に合わせて少しだけチューニングするだけですぐに生産に使える」というご意見が多かったです。
 通常、製造装置を購入しても量産に至るまでには半年から1年かけてテスト稼働などをこなして、ようやく生産に移行できるものです。
 アネルバのC-7100では、他社の装置では本来お客様が自分でやるような装置の最適化、弊社ではプロセスのレシピといいますが、その開発を既にアネルバ側で行なっているため、お客様はアネルバが作ったレシピに基づいて調整していただくだけで、数ヶ月から半年以内には生産ができます。
 その点にお客様は魅力を感じているということでした。
 製造装置というのは、1度採用されれば2台目3台目も同じ装置を採用されます。そのため、ある技術世代を抑えればマーケットシェアでトップを取ることができます。
 そういう意味では製造装置の分野は非常にシビアで、1度その技術世代に選ばれればシェアを取ることができますが、選ばれないとシェアがゼロということにもなります。本当に「0か1か」の世界です。
 特に磁気ヘッドの分野に関しては、他社と性能面で差がつけることができましたので、弊社のC-7100がシェア100%を実現できました。あまり技術的な差がない場合には、ランニングコストが安いなどの観点から選ばれますから、そうなるとシェアが70%とか80%といったこともあり得ます。


【産業総合技術研究所と共同開発や装置開発だけでなく材料の開発にも携わった経緯を教えてください。】

 我々は装置メーカーですが、弊社の装置を使って、お客様がより良いものを生産できるようにするために、圧力や温度設定などの製造プロセスのレシピや材料の開発も行なっていました。
 その開発を自社だけでなく、もっと外部の優秀な人たちと組んで新しいものを開発したいという思いがあって、2002年頃から産総研さんとは共同開発を進めていました。
 それが2004年のCoFeB/MgO/CoFeB構造のMTJ素子の開発という素晴らしい結果につながりました。さらに2008年には「CoFeB/MgO/CoFeB構造のMTJ素子」を産総研と共同開発した功績により、産学官連携推進功労表彰の内閣総理大臣賞受賞につながりました。
 私は材料開発にも興味がありましたので、これが後の2007年に材料やプロセスの研究で博士号(工学)を取ることにつながりました。
 製造装置メーカーとしては、製造装置を買ってほしいわけですから材料やプロセスの分野の研究で特許が取れれば、「この材料やプロセスを使うと、お客様のデバイス性能をもっと良くすることができます。そのためにはうちの製造装置が必要なんです。」というストーリーが出来上がりますから、装置メーカーが材料やプロセスの研究を一生懸命やることの重要性を学びました。材料やプロセスまでちゃんとケアできたというところが、C-7100でのシェア100%達成につながったと思います。当時(2002年頃)からここまで材料やプロセスの分野力を入れていたのは、弊社だけだったと思います。


【会社の支援を受けて、博士号(工学)を取得した経緯について教えてください。】

 2004年10月から2007年9月までの3年間は、会社の支援を受けて東京工業大学の社会人博士課程に通い、博士号(工学)を取得しました。
 はじめから博士課程を目指していたのではなくて、仕事を一生懸命やっていた中で、2004年に当時の上司が「社会人博士課程があるから取ったらどうか」と後押ししてくれたからです。
 東京工業大学の博士課程に3年間通ううちに教授と知り合いまして、2008年から2011年は客員准教授としてスピントロニクス材料について講義を行っていました。今も大学から学生向けにスパッタ装置について、1日だけの講義を引き受けることがあります。
 お客様や学会でのプレゼンのほうが緊張しますが、学生向けの講義は別の意味で刺激を受けます。学会では、知識や背景をよく知っている人に最新のトピックを伝えれば良いのですが、学生の方には基礎を教えますから、間違えるわけにいきません。
 学生の方も素直に何でも聞いてくださるので、ちゃんと答えられるように勉強しなければいけませんし、説明の仕方や自分の基礎知識を磨くという意味で、とてもいい経験になります。


【開発だけでなく、サポート面が重要だと考えている理由は?】

 製造装置は一般消費者向けの製品と違って、販売したら終わりではなく、装置をご購入いただいたお客様が、それを使って製品を作っていくために、装置が安定的に稼動しなければなりません。そのため、ご購入いただいた後のサポートが非常に重要です。
 半導体分野の製造装置は、生産現場の方から装置の性能、生産性、サポート体制に至るまで非常に厳しい目で見られています。故障してお客様の生産が止まれば、大きな損失になってしまいます。そのため、異常が見つかったら、すぐに弊社のサポートグループの担当者が飛んで行って作業をする、というサポート体制が問われています。
 そこは技術力だけではなく、会社としての総合力が問われている点ですので、我々開発部門がうまくサポートできるようにバックアップするのが重要だと考えています。
 メンテナンスやサポートをする中で、逆にお客様の使い方から新しい装置の使い方を気づかされることもあり、それが今後の製品の開発に生かしていくこともあります。お客様が、今後はそういう使い方をしたいということがわかると、それに合わせて装置を改良していきます。


【最後にお客様へのメッセージをお願いします。】

NC7900

 半導体業界は開発スピードが早いですから、買った装置で生産と平行して開発を行なうこともあります。なおかつ製品の世代が変わることで、製造装置も改造してアップグレードしていくことが必要です。常にお客様と一緒に開発していかなければいけない業界であると感じています。
 私は、お客様の生産担当の方だけでなく、開発担当の方とも定期的に会って次にどんなものが求められているのかということを聞いて、弊社も次に開発すべきものを考えています。製品開発に必要なのは、お客様から何を求められているのか、そこを早く正確に察知することですから、お客様とのディスカッションは重要です。当然、学会や論文でも情報は収集するのですが、お客様の現場での生の声はもっと重要です。
 開発だけでなく、コストを下げ、生産効率を上げる活動も継続していかなければならないですから、今後もお客様と密に連携を取りながら、お客様製品のデバイス性能向上と、生産効率改善のために尽くしてまいります。



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